3回目。
今回は、海底在住の魔族&モンスターから見たクラーケンについて。
書いてみると、クラーケンは魔海という環境内では、とてもやさしいモンスターになりました。
餌を陸上から捕ってきて、海中のものにはほとんど手を出しません。やさしい!
<一般の認識>
多数の触手持つ魔族は、クラーケンを騙せるようだ。クラーケンは彼らをわが子たるテンタクルスと間違い、容易に警戒を解き、攻撃されない限り襲われることもないという。
中でも水妖蛇……スキュラたちは、サイズを除けばクラーケンに似た外見の者が多く、見逃されやすい。これは魔海内において、スキュラたちがほぼ唯一無二の大勢力を築いていることと無関係ではあるまい。
「クラーケン……ああ、大母様のことぉ? ふふっ、そりゃあ地上の魔族からすれば、脅威でしょうねぇ。引きずりこまれて種馬にされちゃうんだものぉ。沖や深海まで連れて行かれたら、何千年搾られるかわかんないし。そのまま、心が壊れて消滅しちゃう魔族もいるっていうわねぇ。でも、わたしたちはこの姿のおかげか、大母様のご贔屓か……あの方に襲われることなんてないのよぉ。ふふ、ひょっとしたら世間の言うとおり、大母様がわたしたちの先祖なのかもしれないわねぇ? 大母様がわたしたちを子供と思ってくださってるなら、光栄なことよぉ。わたしも大母様みたいに奴隷を並べて搾ってさしあげたいものぉ……うふふふっ、大母様と泳ぐときには、その奴隷も弄らせてもらってるけど。誰も彼も、とろーんとだらしない顔しちゃってねぇ? キスしてあげたり、触手で弄ってあげると嬉しそうに反応してくれるのよぉ。本当に大母様は、領主や魔王なんかよりよほど身近な守り神なんだからぁ……でも、あんまり沖合いや深海、大母様が産んだテンタクルスで溢れた場所には行けないわねぇ。大母様はともかく、テンタクルスはわたしたちも気にせず襲ってくるんだからぁ……わたしがあなたを、こうしてるみたいにねぇ?」
――“水蛇将”ネルヴァ、海底の水妖蛇
<使役者の感想>
純粋な意味での“使役者”ではないが、同じ深海に住むモンスター達はクラーケンにもテンタクルスにも襲われないようだ。魔族とほぼ変わらぬ知性と容姿を持つメロウたちがこの恩恵を得ていることは、特に大いなる謎と言えるだろう。しかし、我々にとって何よりの問題はクラーケンがメロウやテンタクルスと連携を取って獲物を物色し襲うことである。
「うん、いつも助けてもらってるし、助けてあげてるよっ。同じ深海に住む仲間だもん。あたし達は陸上でほとんど動けないし、船の上だって引き上げられたら死んじゃうから……クラーケンに船を沈めてもらうんだー♪ 魔王の船なんかは無理だけど、ちょっとした浅瀬の小船なんか簡単に引きずりこめるんだよっ。大きい船でも、あたし達が船底に穴開けて、クラーケンに上から脅かしてもらったら簡単だよー? そうやって、あたし達は落ちてきた子を旦那様にするんだー♪ あと、強い人が出てきたら、クラーケンに戦ってもらったりもできるし~。産み出したテンタクルスには旦那様の番もしてもらってるしね~。ちょっとー、あたし達だって何もしてないわけじゃないんだからっ。あたし達は狩りをする時、獲物を逃さないように歌うの。メロウの歌を聞いたら、魔族だって離れられないんだからっ。みんなで歌えば、クラーケンの手元に獲物を釘付けできるわけ♪ それに、逃げようとした奴隷を捕まえてあげたりもしてるし……ねっ? ちゃんと助け合ってるでしょ?」
――テティス、深海のメロウ