やはり一回で終わる分量になりませんでしたw
明日まとめて……とも思いましたが、今日ひとまずの分を。
たぶん明日で終わる……はず。
■地霊樹■
妖精郷の中心にあるこの巨大な樹は、その根を森全ての下に張り巡らせているという。森を為す全ての樹は彼の樹の子らと言う伝説すらある。高く、広く枝を伸ばした地霊樹は巨大ながら、洞すらなく立ち枯れる様子もない。夜には月光を吸って燐光を放ち、葉や幹を喰らう虫も付かない。妖精達が姿を消すとき、その根の中へと妖精は消えていくという。妖精達の不老不死は、この樹の実を喰らっているからだという話すらある。
これほど大いなる存在だが、妖精たちは地霊樹を単なる大きな樹としてしか扱わない。傷つけることこそないが、それは他の樹に対しても同様である。地霊樹の実はよく食べられているが、殊更ありがたがられているわけでもない。どうやら、彼らにとって地霊樹は、当たり前の如くそこにあるだけの存在らしい。
■温泉■
地霊樹の周囲には多数の湧き水がある。この中の少なからぬ量が温泉だ。これはエルフ達が魔法によって作り出したものであり、彼女らの気まぐれで数を増やしている。こうしたエルフの温泉は、狼やゴブリンにも多々利用され、もっぱら乱痴気騒ぎの場となる。ここに入ったエルフは、身を清めさせることでゴブリンに奉仕の名分を与える。身清めにおいても淫らな行いや愛撫が重ねられ、そのまま湯の中や縁にて情交に及ぶことも少なくない。迷い込んだ人間が知らずこの湯に身を浸せば、すぐに妖精らの餌食となるだろう。
妖精の湯には各種治療効果と共に美容と回春の効果もある。このため、妖精の湯を求め、森の奥へ冒険者などを向かわせる貴族や資産家も少なくない。しかし、このような者達が妖精郷へ入り、無事に戻った試しはない。狼やゴブリンに姿を変えるか、もっと惨めな姿となって何とか森を這い出すのがせいぜいであろう。
■岩盤幕■
いくつかの温泉の傍には、平たい岩があり、その上に干した草で編んだ天幕が立っている。これらは岩盤浴のため作られた天幕であり、岩盤の下を流れる湯で熱された岩の上で汗を流す場だ。ここを愛用するのはエルフ達であり、エルフが入ればその身を磨くべくゴブリン達も従者として入り込む。
エルフ達の岩盤浴は淫靡なものであり、その身を覆う汗をゴブリンらに自らの体や舌を使って磨かせる。この折、ゴブリンらは望むままに精を放つことを許され、エルフの肌に、蜜壷に、多量の精を放ち塗りつける。やがてエルフの肌は汗と精でどろどろと濡れ、髪まで精を絡めるという。この退廃的な遊びは、エルフらの中でも年配の者らが楽しむ行為だ。こうして身を汚しきった後に、改めて温泉や“清めの泉”にて身を清めるのだという。
■回復の泉■
エルフ達が地霊樹の周囲に作ったのは温泉だけではない。数ある泉の内、冷たい水がたたえられたものは回復の泉である。これは傷や疲労を癒す水であり、何らかの事故にあったエルフやゴブリンが多用する。地霊樹の周囲には近づかない狼や、エルフ達と距離を置くエルダーテイル達もまた、やむえぬ時はこれらの泉にやってくる。泉の水を飲み、あるいは身をそこに沈めれば、あらゆる傷は塞がり、疲れは消えるという。人のあらゆる万病をも快癒させると言われ、温泉の湯以上に数多の貴人が求めてやまぬ霊液だ。
実のところ温泉に比べれば、この回復の霊液は森の外にも、もたらされることが多い。エルフ達は殊更このような水にこだわりはないようだ。ホブゴブリンや狼達は、自らが守護する人間のため、この水を汲んでくることが多い。とはいえ、守護対象当人の危機や、よほど深く頼まれた時のみに限られる。かつて、魔女に兵を差し向け回復の霊水を求めた領主が、癒すべきわが子をゴブリンに連れ去られた物語は、近隣でもよく知られる因果話である。
ほとんど傷のつかぬエルフらが、この泉を作るのは、産湯と産後回復のためである。エルフ達はこの泉に身を沈め、水中で子を産む。そして、生まれた子は回復の霊水を浴び、エルフ自身も大いなる回復の効果を受けて泉を出る。エルフは自らの子を抱いて泉を出、その夜には新たな子を仕込み始めると言われる。また、生まれた子は何度も回復の泉の水を浴び、母乳を飲んで。ゴブリンならば一夜、エルフならば一月ほどで、成人と化すと言う。
■清めの泉■
地霊樹からいくらか離れた場所に、蒲の穂が茂り、多数の生き物が住まう泉がある。この泉はエルフが造ったものではないが、彼女らが足しげく通うことで有名だ。ここにはゴブリンや狼が近づくことはほとんどない。身を汚したエルフやエルダーテイルが頻繁にここへ訪れ、身を浸しに来る。
この泉には奇妙な“啄ばみ魚”の群れが住み着いている。指二本程度のこの魚は、女の汚れと快楽を喰らうと言う幻獣だ。女がこの泉へ入れば、たちまち魚が群がり、体中の穢れを啄ばみ喰らってゆく。これは過敏な場所に対しても同様であり、エルフらは膣内や腸内にまで魚に潜り込まれ、念入りに清められる。日一度この泉に向かうエルフは、排便することがないとすら言われる。このことから、エルフは排泄しないという伝説まで生まれたほどだ。当然ながら、過敏なエルフ達にとってこの“清め”はたいへんな快楽を生む。このため、中には清めのためにゴブリンらと乱交し、身を汚すエルフもいるほどだ。
清めの泉は、森の中にひとつしかない。その場所は、エルフとエルダーテイル、その他女性型の幻獣によって念入りに隠されている。かつて何も知らぬ人間が迷い込み、この泉で“啄ばみ魚”を捕らえた事件があった。エルフらの一部を喰らっているとも言えるこの魚は、食べた者に英雄の力と、あらゆる魔術を打ち破る加護を与えたという。これにエルフらは怒ったが、魔術の効かぬ者に手の打ちようはなかった。残る魚を腐らせ、同じ加護を受ける者を生まぬことが精一杯であったという。以来、エルフ達森の住人はこの泉を念入りに隠した。いまやエルフと古きエルダーテイル以外には近づけぬ場所と化している。
■境界橋■
妖精の森の中、いくつかの小川が流れている。これらの小川にはいつの頃からか橋がかけられており、それは森の中から妖精郷へ至る境界になっているという。この橋の傍には狼やゴブリンがよくおり、迷い込んで来た者を誘う。時には橋の向こうでエルフが、狼やゴブリンと戯れていることもあるだろう。誘われ橋を渡った者はチェンジリングとなり、二度と里へ戻ることはできない。
運がよければ妖精たちに気づかれず、自らも妖精郷へ至ったことへも気づかず、帰って来る者もいる。ただし、こうした者には妖精への縁が生まれ、家にはホブゴブリンがやって来るという。近隣の人里で、森へ入る者は皆、決して橋を渡ってはならないときつく言われる。これを渡れるのは、ゴブリンらと肉体関係を結んだ魔女や薬草師だけなのだ。彼女達だけが森の奥へ入り、貴重な薬草や果実を持ち帰る。